【孤高の鬼才を演ずる】

ところで私は、同級生の誰とも親しい間柄を築けず、友愛の情を向けられない境涯に置かれたがゆえに、自己の人甲斐(ひとがい)の水準が劣っているという考えに常に迫られてあり、そうした自己否定感を、学課の成績が傑出しているという美点を身につけるによって抑えたい心積もりがあって、 “【孤高の鬼才を演ずる】” の続きを読む

【孤独な生徒のデスマーチ】

最果ての地すら追われた私は、いよいよ常人の体裁を保つために脳を振り絞りました。一号館四階と一年四組がある三号館二階を除いた各階を一めぐりするのが、私の常套の策でした。この時私は、立ち止まらず振り返らずに、すべての渡り廊下と各号館に二つずつ設けられている階段室を平等に使って、同じ場所を二回通らない原則を守りました。 “【孤独な生徒のデスマーチ】” の続きを読む

【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】

これは二年生だったある日のことでした。南北に渡り廊下が延び、東は二年生の教室が並ぶ廊下に続く、二号館三階の十字路にさしかかって私は、西を向いた、空き教室三個と作法室の間口をあわせた長さにわたる廊下の突き当りに書道室の扉を見かけ「忘れ物を取りに書道室へ向かい、鍵がかかっているので断念して引き返す青年に扮して30秒を稼ぐ」という着想を得ました。 “【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】” の続きを読む

【図書室の三つの磁場】

ところで、私は先に「昼休み中の図書室は受験勉強をする三年生の物で、単独で本を読みに来る生徒なんて他に居なかった」と記しましたが、それは事実とは不一致でした。実際には、図書室に足を運ぶと、同じ一学年の駒込くんという子と、鳥丸くんという子が蔵書を開いているのを、三日に上げずに見かけていました。 “【図書室の三つの磁場】” の続きを読む

【孤独な生徒は時々には教室にて狸寝入りをする】

一方で、なんと私には、昼休みの時間中ずっと教室に留まるパターンの日がありました。私は喧騒の教室の中でも、もし飲食という動作をとる場合は、同じ卓を囲う友達がいないことが端的に図式化されるためにとうてい居たたまれなかった訳ですが、ただ、ぽつねんと座っているだけなら、ぎりぎり精神ダメージに耐えることができたのです。 “【孤独な生徒は時々には教室にて狸寝入りをする】” の続きを読む

【ヤンキーは見限りが早い】

2005年5月11日のことでした。その日の五時限目には「進路ガイダンス」という企画があり、一年生全員が講堂に会しました。私は、自分のクラスメートが集まった列を見つけ、所定の位置である曽根高哉の背後へと向かいました。すると、目当ての人物は180度振り向き、同時に列の正中線から少しずれた位置に立ち、手を軽く開いて、前腕だけを、わき腹の高さから列の正中線の方に延ばして、案内するという格好にして、
「前行っていいよ」
と言い放ちました。
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【崩れ行く新入生の初々しさ】

2005年7月19日には、職員会議で議題になったのか、朝のホームルームにて担任の教師から、「全校集会の時には番号順で並ぶように」という話が改めてあったのですが、曽根高哉は「番号順だと?そんなもん知らねーし。そんなもん、認めねー」と愚痴っていました。 “【崩れ行く新入生の初々しさ】” の続きを読む