孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない

【孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない】:INDEX

 

【「孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない」の説明】

【昼休みの教室からの去り方】

【司書さんにも知られたくなかった】

【本を読めない図書室】

【孤高の鬼才を演ずる】

【自分の分子を全て消したい時間】

【孤独な生徒のデスマーチ】

【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】

【図書室の三つの磁場】

【孤独な生徒は時々には教室にて狸寝入りをする】

【「孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない」の説明】

前にも述べた通り、私がウィークデイの昼食にウイダーinゼリー二パックしか摂れない習慣は、悲しいかな満15歳2ヶ月から満17歳11ヶ月まで、三年一日の如くに同じでした。そうして、大多数の生徒にとっては食事を終えてもその後に続くのは、空の弁当箱を片付けて雑談を楽しむ時間であるわけで、私が一般の人に標準の利益を逃していることも、そのことを人に見られたくない気持ちなのも変わりないわけで、私はくる日もくる日も「同級生や、他の学級の生徒や、教師からの視線」というレーザー探知機が張り巡らされた校舎で、数十分にもわたる昼休みの余りをやり過ごさなければならなかったのです。このカテゴリーでは、【孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない】と題して、私が不遇な昼休みの空き時間を過ごした高校一年生の日々をデフォルメして、ダイジェスト形式にした連載を並べていきたいと思います。

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【昼休みの教室からの去り方】

私は、四時限目が終わると、学食派、購買派の同級生が教室から散ったのを見澄まして立ち上がり、きまって教室のすぐ近くの水道へ手を洗いに行きました。これは、単なる時間稼ぎのためだけではありませんでした。
私には、教室に残った弁当派の同級生の内に、まだ山口鮎子と笠端真由が流した噂を聞いていない人がいるかも知れない、と考えたい部分がありました。手指消毒には、そういう人が「立瀬将樹は昼休みをどこで過ごしているのか?」という議題を遅ればせながら他の同級生に振る、ということを起こりにくくするために、あるいは、すでに噂を耳にしている人がからかいの心によって、改めて、そのことを話題に出すということを起こりにくくするために、目をつけられるかも知れないポイントである「立瀬将樹が教室を出る動向」に際して、「それをしたのは、四時限のあいだに手についた汚れを洗い落としたいためだった」という真っ当至極な体裁を自らに付与するによって、それを自然な風景に溶け込ませ、もって観察者の一瞬の油断を誘うというフェイントの意味合いもこめられていたのです。

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【司書さんにも知られたくなかった】

そのようにして教室を出た私は、二号館一階東はしの購買へ行っている団体が戻ってくるのと間違っても鉢合わせしないように、自分の教室がある三号館の二階から、渡り廊下を渡るより先に同じ号館の三階に登る経路を使って、例の最も人通りの少ない区画へ向かいました。
目的地で二本のぬるいゼリーを胃に流し込んだ後私は、昼休み開始10分を過ぎ、図書室にある程度人が入るまで同じ場所に待機しました。私は、昼休みが始まって間髪を容れずに図書室入りをすると、私がろくに昼食を摂っていないことが司書さんにとって明白となり、私の立場の実情が司書さんの推し量るところとなってしまうと懸念していたのです。

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【孤高の鬼才を演ずる】

ところで私は、同級生の誰とも親しい間柄を築けず、友愛の情を向けられない境涯に置かれたがゆえに、自己の人甲斐(ひとがい)の水準が劣っているという考えに常に迫られてあり、そうした自己否定感を、学課の成績が傑出しているという美点を身につけるによって抑えたい心積もりがあって、 “【孤高の鬼才を演ずる】” の続きを読む

【孤独な生徒のデスマーチ】

最果ての地すら追われた私は、いよいよ常人の体裁を保つために脳を振り絞りました。一号館四階と一年四組がある三号館二階を除いた各階を一めぐりするのが、私の常套の策でした。この時私は、立ち止まらず振り返らずに、すべての渡り廊下と各号館に二つずつ設けられている階段室を平等に使って、同じ場所を二回通らない原則を守りました。 “【孤独な生徒のデスマーチ】” の続きを読む

【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】

これは二年生だったある日のことでした。南北に渡り廊下が延び、東は二年生の教室が並ぶ廊下に続く、二号館三階の十字路にさしかかって私は、西を向いた、空き教室三個と作法室の間口をあわせた長さにわたる廊下の突き当りに書道室の扉を見かけ「忘れ物を取りに書道室へ向かい、鍵がかかっているので断念して引き返す青年に扮して30秒を稼ぐ」という着想を得ました。 “【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】” の続きを読む

【図書室の三つの磁場】

ところで、私は先に「昼休み中の図書室は受験勉強をする三年生の物で、単独で本を読みに来る生徒なんて他に居なかった」と記しましたが、それは事実とは不一致でした。実際には、図書室に足を運ぶと、同じ一学年の駒込くんという子と、鳥丸くんという子が蔵書を開いているのを、三日に上げずに見かけていました。 “【図書室の三つの磁場】” の続きを読む