【図書室の三つの磁場】

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ところで、私は先に「昼休み中の図書室は受験勉強をする三年生の物で、単独で本を読みに来る生徒なんて他に居なかった」と記しましたが、それは事実とは不一致でした。実際には、図書室に足を運ぶと、同じ一学年の駒込くんという子と、鳥丸くんという子が蔵書を開いているのを、三日に上げずに見かけていました。私たち三人ともが似たような境遇に立っているのは互いにとって疑いの余地がありませんでした。陰鬱な面持ちで図書室に来ている立場といい、図書室のドアが開く度に険しい表情をしてその方を盗み見る癖といい、袋小路に入って本を探す間隔の多さといい、図書室に来ない日をあえて設ける計画性といい私と他の二人は示し合わせたように同じ習慣を保っていました。しかし、駒込、鳥丸という苗字は廊下ですれ違いざまにジャージの刺繍を盗み見て知ったのであり、私は、この二人物のどちらかをほぼ毎日視界に入れていたのに、そのどちらとも直接言葉を交わしたことは無く、二人物同士が声をかけ合うのを聞いたこともありませんでした。
私は、2、3回の昼休みの内に駒込君や鳥丸君の素性を見透かすと同時に、三人が三人ともに最大幸福をもたらす着想を思いつきました。
しかし私は一着手に取りかかるどころか必死にその着想を振り払ったのでした。そうして、図書室に限らず学校のどの場所でも、私たち三人の間には斥力が働いていました。休日に学校の外で偶然、鳥丸君と自転車ですれ違ったことがありましたが、その時にも反応は互いに同じでした。私が彼らを目のはしにとらえるやいなや「付き合う相手の人格を諮る余地も与えられず孤独感を薄めるために、同じ隅に寄せられただけの鳥丸君や駒込君にすがりつくのは自分に人権が少ない事を認めるようで口惜しい」と、歩み寄りたいなどとは夢にも思わせないことさらつっけんどんな雰囲気を纏わせると、相手の方でもほぼ同じ瞬間に同じ装いを整えていました。私と駒込君は仏頂面をするタイプで、鳥丸君は外界からの影響に全く反応していないかのような空間無視を保つタイプでした。特に何も関わり合った事もない人物にたいして不自然に無愛想な態度を取らなければならないこともまた、彼らの実情が私と同じである根拠の一つなのでした。

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