【ボロボロになったワンピース9巻を読む君に今日何があったの】

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私は、家に帰るとすぐさま布団の中に入り、泣いたのでした。
その日の精神ダメージは、登校前の予想よりもはるかに重かったということでした。
私とて、夏季長期休業を漫然と過ごしたわけではなかったのです。
私は、11月に開催されるという長距離走大会で活躍できるように、7月21日からマラソンの練習を初めて、その日まで欠かさず続けていたし、ファッションの研究もして、一番お気に入りの服の組み合わせで始業式の会場に出かけていたのでした。(私の高校は自由服であったのです)
二学期こそは、何かとりえを得て、クラス内に居場所を作りたかったのです。あるいは、無愛想ながらも高い能力を持つ孤高の人という美徳を自らに纏わせたかったのです。そこまでは成功しなくとも、せめて見どころを作って、存在を否定されにくくしたかったのです。しかし、そのように少し蓄えた自信は、現実の体育館にて無残に打ち砕かれたのです。山浦秀男や、仁藤武弘や、曽根高哉や、おそらくクラスの大部分にとって、私の身体が少し引き締まったことや、外装がコントラストカラーで配色されたことなんて無いも同然の差異で、誰もが、他の同級生とパイプがあるかないかという価値観でしか私を見ていなかったのです。42日間学校生活を見なかったために、全体に学校における不幸に対する想定が薄れていたこと、自分なりの努力の成果で、窮状から抜け出せることを少し期待していたのに裏切られたこと、「全校集会の場で自分の存在を否定してくるのは曽根高哉だけである」という7月20日時点での想定を携えて会場に入ったところ、実際には私の存在を否定してきた人数は3人であった、という落差の大きさ、何も見込みのなくなった長い二学期への絶望感、こうした背景があいまって、私の心には深い傷が刻まれることとなったのです。
ところで、他のコンテンツでも何度か記しているように、高校在学当時の私は、自分ひとりでいる部屋でも心の中ですら「クラス内で一人も友達が出来ていない」という問題点の核心を表す言葉を作れませんでした。上記のように、傷が深く残った要因を分析できたのは、後年に至ってからのことであったのです。したがって私は「おしゃれをすれば、声をかけてもらえると思ったのにまったくムダだったので悲しい」とか「クラスのどのグループにも入れて居なくて馬鹿にされたので悲しい」などと、説明的な述懐をしながら泣いたわけではなかったのです。私は、本棚から出した「ワンピース9巻」といっしょに布団にもぐり、泣きじゃくっては、布団から這い出てページを開いて、それからまたシーツを濡らしたのです。
同級生から嫌なことを言われたために、私は、望まずともその原因や背景について意識を向けなければなりませんでした。
始業式の最中からその後の短縮日課の間じゅう、ともすれば「クラス内で、同級生とパイプが無いせいかな」という意味の考えがほんのりできかけて、そのたびに胃の裏の温度が急騰して、蒸気が形成されてしまい、私は必死でその思考を打ち消して、増大していく上半身の膨満を必死で食い止めていました。私は、内圧を下げるためにずっと泣き出したかったのです。同級生の前だから恥ずかしくてできなかったのです。そうして、帰宅した時も、何も持たずに、ただ布団に入るだけでは、自分の不幸の核心にどうしても目に入れざるを得なくなる予感がしたのです。目に入れざるを得なくなって、涙を出して身体の内圧を下げる効果よりも、胃の裏の突沸の作用が上回り、上体が破裂して死ぬか、内臓が焦げ落ちて死ぬかのどちらかの結果が待ち受けている予感がしたのです。
ワンピース9巻とともに布団に入ったのは、自分の現況には目を逸らしながら、涙だけを流すための工夫だったのです。私は、登場人物のナミに魂を半分移していたのです。私は、自分の感じている悲しみを、「アーロンに、ココヤシ村での幸せな生活を奪われたナミを見て、憐憫を感じたために起こった」という態に脳内ですり替えようとしたのです。そうすることでしか、自分を泣かせることが出来なかったのです。それともう一つ。いつかの未来には、ルフィのような人に助けられて窮状から抜け出せると、自分に言い聞かせたかったのです。
そういう訳で、この慟哭中に私が発する言辞は、ナミが「早く、自由になりたいよ・・・ ベルメールさん」と嘆いているページを見てからの、「早く自由になりたいよ・・・・・・(学校での孤独から)」という嘆息であったり、「私、一人で戦うって決めたの!!」とセリフを言うページを読んでからの、「僕は一人で戦うって決めたんだ・・・・」という宣言であったり、「アーロン!!アーロン!!」と泣き叫んでいるシーンを開いてからの「仁藤!!仁藤!!」とか「山浦!!山浦!!」という叫びであったりと相成ったのです。

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