するとその皮膚には、ひりひりと焼け付いた感じがありました。どんな皮膚でも爪で掻いた直後には、そんな感覚が生じるもので、しかし普通は注意しないで流しているものですが、この時の私には、その焼け付きが病変の始まりかと思えてしまったのです。 “【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その2” の続きを読む
【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その3
その後の私は、自らの状況を善導しようとして、あらゆる策を講じました。
うずき感を発見してから時間が短いうちは、ふとした拍子にほんの1時間前までの平穏な日常を取り戻せる気がして「自分の指から不快感が移るなどということはないよ、4年間大丈夫だったじゃないか、そんな大事じゃない時間がたてば皮膚の違和感は消えているよ」などと空元気を言い聞かせたり、 “【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その3” の続きを読む
【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その4
一方で私は、眠りに落ちれば次の朝には、「自分の指から不快感が移る可能性がある」という発想を持ったことや、どの皮膚に注意を集中したのかを、すべて忘れてしまえているかも知れないと考え、その努力をしました。 “【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その4” の続きを読む
【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その5
さらに、思いもかけず今まで潜在意識下に埋もれていた不安の種が芽を吹きました。
私の新たな論題は、統合失調症への恐れでした。1 “【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その5” の続きを読む
【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その1
〈第五章~忘れられた坑道~〉
ローカル線で福島駅に着いてからは大宮行きの新幹線へ。私の大好きだった景色は私から離れていきました。
這う這うの態で電車を乗り継ぎ、脳裏に浮かぶ言葉はただ「橋谷メンタルクリニックの長谷部先生」でした。私には、埼玉に唯一の希望がありました。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その1” の続きを読む
【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その2
一階に下りていて戻って来た母親が言いました。
「まーちゃん、お父さん、行けって」
手には、電話機の子機がありました。母親は、私の高校での事情を一語でも掘り下げず、それをする意図や必要性をまったく説明しないまま、父親に電話をかけたのでした。その必要性は「いきなり息子が高校を中退する恐れが出てきて、不安になったので早く安心したい」ということで、その意図は「安心するために問題への対処の責任をすべて夫に押し付けたい」ということであったのでしょう。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その2” の続きを読む
【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その3
母親は、自分が出した解決案が採用されたことであたかも息子の善導について大きな権限を得たかのように、父親に電話口で「マサキは精神科に連れて行くから」と今日初めて、父親と対等に相談するような重い声で言いました。
それから母親は、電話帳で最寄りの精神科医を調べ、一駅しか離れていない場所にタクシーを使ってまで私を連れて行ったのでした。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その3” の続きを読む
【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その4
さて、連れて行かれた隣町の精神科外来という場所では、壁沿いや間取りの中央に長椅子がいくつも並べられている、消毒液臭い7メートル四方ほどの待合室があり、座面は肩擦れ合うほどに人で埋まっていて、何人か立って待っている人や、診察券を出して空席が無いのを見回して、外に出かけて行った人もありました。
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【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その5
処方箋を提携の薬局へ持って行き調剤を待つ間に母親は「まーちゃんは風邪なら・・・初期症状だから」と知った風なことを言ってきました。精神科医がそのような説明を含めたわけでもなく、この発言は何の論拠があって言っているのか私にはわかりかねました。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その5” の続きを読む
【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その6
さて、私のかかりつけとなった隣町の精神科外来の精神科医がもし、思春期にありがちなあらゆる心の動き方にも精通していて、学校で友達が出来ていなかったり、理不尽な不法行為の対象にされているのを苦にしていながら、強がりで人間生活全般に興味が無いふりをする心理パターンがあることも知識に持っていて、精神病らしい様相を捏造してしまった私を「うつ病」と誤診したのは仕方がないとして、うつ病を悪化させる因子を患者から減らす観点から、上記の思考形式にとらわれていないかどうか検討する心を、常に思案の余地に入れてくれていて、隔週で通う問診の時間の一部を使って、さりげない会話でその方面を探ってくれて、ついには私の学校生活の概要に気づいてくれて、カウンセリングの技術を駆使して、私の肉付きの面を徐々に溶かしてくれて、その裏の真情を引き出してくれるほどの熟練と熱意のある人物であったなら、私は後年、最低限の事務的な会話以外口を利かなくなるまでに、両親を憎まなかったと思います。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その6” の続きを読む