【1/∞】

2005年6月4日に、私は一ヶ月強ぶりに購買を利用しました。その日は、教科と休み時間の垣根が取り払われて、一日中体育祭の準備のために当てられた日でした。教室の様子は、椅子を上に積んだ机が教壇側へ寄せられて床の作業スペースが開かれていて、そこにいる人数について言えば、体育祭の期間中三学年縦割りで連合を組んでいるので、上の学年の教室へ出し物のおみこしを作る手伝いに行っている人がいたり、中庭へ連合の巨大な看板を描く手伝いに行っている人がいたり、体育委員の人は競技に使う道具を作りに行っていたり、自分の出場する競技がある人はその練習をしに校庭へ出たりで、クラスメートは入れ替わり立ち代りし、教室内に留まっている人数はいつでも通常の半分くらいでした。その様相は、本来の昼休みに当たる時間になっても変わりませんでした。そうした状況を把握して、私は久しぶりに購買で食品を買って教室で食事をとることにしたのでした。
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【逆に聞くけど楽しんでると思う?!】

最初に速報が駆け巡ったのは、学級の半分の人数に対してだけであったわけですが、日にちが経って、波及はひそめく声に乗ってクラスのすみずみへと行き渡ってゆきました。
2005年6月5日には、視聴覚室で何かビデオ鑑賞の授業があり、授業が始まる間際の時間に、席順の都合で隣接した山浦秀男が、ふと私がそばにいることに気づいて、顔面を蔑視のありありと見える表情に変えて、
「人生楽しい?」
と問いかけてきました。 “【逆に聞くけど楽しんでると思う?!】” の続きを読む

孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない

【孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない】:INDEX

 

【「孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない」の説明】

【昼休みの教室からの去り方】

【司書さんにも知られたくなかった】

【本を読めない図書室】

【孤高の鬼才を演ずる】

【自分の分子を全て消したい時間】

【孤独な生徒のデスマーチ】

【孤独な生徒は後輩から職務質問をされる】

【図書室の三つの磁場】

【孤独な生徒は時々には教室にて狸寝入りをする】

【「孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない」の説明】

前にも述べた通り、私がウィークデイの昼食にウイダーinゼリー二パックしか摂れない習慣は、悲しいかな満15歳2ヶ月から満17歳11ヶ月まで、三年一日の如くに同じでした。そうして、大多数の生徒にとっては食事を終えてもその後に続くのは、空の弁当箱を片付けて雑談を楽しむ時間であるわけで、私が一般の人に標準の利益を逃していることも、そのことを人に見られたくない気持ちなのも変わりないわけで、私はくる日もくる日も「同級生や、他の学級の生徒や、教師からの視線」というレーザー探知機が張り巡らされた校舎で、数十分にもわたる昼休みの余りをやり過ごさなければならなかったのです。このカテゴリーでは、【孤独な生徒は昼休みの間じゅういたたまれない】と題して、私が不遇な昼休みの空き時間を過ごした高校一年生の日々をデフォルメして、ダイジェスト形式にした連載を並べていきたいと思います。

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【昼休みの教室からの去り方】

私は、四時限目が終わると、学食派、購買派の同級生が教室から散ったのを見澄まして立ち上がり、きまって教室のすぐ近くの水道へ手を洗いに行きました。これは、単なる時間稼ぎのためだけではありませんでした。
私には、教室に残った弁当派の同級生の内に、まだ山口鮎子と笠端真由が流した噂を聞いていない人がいるかも知れない、と考えたい部分がありました。手指消毒には、そういう人が「立瀬将樹は昼休みをどこで過ごしているのか?」という議題を遅ればせながら他の同級生に振る、ということを起こりにくくするために、あるいは、すでに噂を耳にしている人がからかいの心によって、改めて、そのことを話題に出すということを起こりにくくするために、目をつけられるかも知れないポイントである「立瀬将樹が教室を出る動向」に際して、「それをしたのは、四時限のあいだに手についた汚れを洗い落としたいためだった」という真っ当至極な体裁を自らに付与するによって、それを自然な風景に溶け込ませ、もって観察者の一瞬の油断を誘うというフェイントの意味合いもこめられていたのです。

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【司書さんにも知られたくなかった】

そのようにして教室を出た私は、二号館一階東はしの購買へ行っている団体が戻ってくるのと間違っても鉢合わせしないように、自分の教室がある三号館の二階から、渡り廊下を渡るより先に同じ号館の三階に登る経路を使って、例の最も人通りの少ない区画へ向かいました。
目的地で二本のぬるいゼリーを胃に流し込んだ後私は、昼休み開始10分を過ぎ、図書室にある程度人が入るまで同じ場所に待機しました。私は、昼休みが始まって間髪を容れずに図書室入りをすると、私がろくに昼食を摂っていないことが司書さんにとって明白となり、私の立場の実情が司書さんの推し量るところとなってしまうと懸念していたのです。

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【孤高の鬼才を演ずる】

ところで私は、同級生の誰とも親しい間柄を築けず、友愛の情を向けられない境涯に置かれたがゆえに、自己の人甲斐(ひとがい)の水準が劣っているという考えに常に迫られてあり、そうした自己否定感を、学課の成績が傑出しているという美点を身につけるによって抑えたい心積もりがあって、 “【孤高の鬼才を演ずる】” の続きを読む