【ヤンキーは見限りが早い】

2005年5月11日のことでした。その日の五時限目には「進路ガイダンス」という企画があり、一年生全員が講堂に会しました。私は、自分のクラスメートが集まった列を見つけ、所定の位置である曽根高哉の背後へと向かいました。すると、目当ての人物は180度振り向き、同時に列の正中線から少しずれた位置に立ち、手を軽く開いて、前腕だけを、わき腹の高さから列の正中線の方に延ばして、案内するという格好にして、
「前行っていいよ」
と言い放ちました。
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【崩れ行く新入生の初々しさ】

2005年7月19日には、職員会議で議題になったのか、朝のホームルームにて担任の教師から、「全校集会の時には番号順で並ぶように」という話が改めてあったのですが、曽根高哉は「番号順だと?そんなもん知らねーし。そんなもん、認めねー」と愚痴っていました。 “【崩れ行く新入生の初々しさ】” の続きを読む

【新学期に急転する】

2005年9月1日、二学期の始業式のことでした。私が、1年4組に割り当てられた、長い長方形の区画の、前に26人が体育座りできるスペースの空いた地点を見定めて腰下ろすと、ほどなくして背後から山浦秀男の怪訝な声がしました。
「ちょっとさぁー、もっと前行ってくんねぇ?」 “【新学期に急転する】” の続きを読む

【ボロボロになったワンピース9巻を読む君に今日何があったの】

私は、家に帰るとすぐさま布団の中に入り、泣いたのでした。
その日の精神ダメージは、登校前の予想よりもはるかに重かったということでした。
私とて、夏季長期休業を漫然と過ごしたわけではなかったのです。 “【ボロボロになったワンピース9巻を読む君に今日何があったの】” の続きを読む

【涙尽きても憂い尽きず】

「学校から帰るや否や泣き喚く」という、自分が学校関連で何か悩みを抱えていることを強力に示唆するエピソードが記憶に残りましたが、だからといって、その後の私に何か変化が起こったということはありませんでした。自分が悲嘆に暮れている理由を半分ナミのことにしてしまったために、「クラス内の自分の位置づけについて」とか、「肉付きの面の効果のほどはどうか」とかいう考察に完全に向き合いきれず、したがって、このエピソードを経ても肉付きの面を覆すことは出来なかったのです。 “【涙尽きても憂い尽きず】” の続きを読む

【緊急避難だと思う】

十月のある朝会の日に至って、私は体育館に足を踏み入れかけて、突然押し寄せた泣き崩れたい感情に胸を締め付けられて、保護本能からくる反射によってきびすを返しました。私はひとまず、校舎内の体育館に近いトイレに逃げ込み、見回りの先生がドアを開ける時には、眉間に皺を寄せて、お腹に手を当てた演技とともに「急に腹痛を起こした」と呻いて、その朝会の時間をやり過ごしました。そうしてそれ以降、高校一年生の間、私は全校集会および学年集会には一度も出席しませんでした。(二年生、三年生時も年度の初めを除いて同様でした) “【緊急避難だと思う】” の続きを読む

【地主のおばさんに怒られる】

土手から去る頃合が来て、駐車場を抜けようとした時に、頭上から声がしました。
「君ねー、ここ私有地だよ?通報されちゃうよー」
恐らくマンションの管理人のおばさんでした。
私は、はたから見れば自分の分が悪いと思いましたが、素直に詫び言は言えず、顔も上げずに早足になりました。
さっきまでの人間界と猫界をつなぐ伝道師としての体裁はひとたまりもなく消え失せ、私は単に逮捕を恐れる人でした。
おばさんは舌打ちして、
「返事はー?」
「口が利けないのー?」
背後から声が追いかけました。

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