【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その5

処方箋を提携の薬局へ持って行き調剤を待つ間に母親は「まーちゃんは風邪なら・・・初期症状だから」と知った風なことを言ってきました。精神科医がそのような説明を含めたわけでもなく、この発言は何の論拠があって言っているのか私にはわかりかねました。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その5” の続きを読む

【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その6

さて、私のかかりつけとなった隣町の精神科外来の精神科医がもし、思春期にありがちなあらゆる心の動き方にも精通していて、学校で友達が出来ていなかったり、理不尽な不法行為の対象にされているのを苦にしていながら、強がりで人間生活全般に興味が無いふりをする心理パターンがあることも知識に持っていて、精神病らしい様相を捏造してしまった私を「うつ病」と誤診したのは仕方がないとして、うつ病を悪化させる因子を患者から減らす観点から、上記の思考形式にとらわれていないかどうか検討する心を、常に思案の余地に入れてくれていて、隔週で通う問診の時間の一部を使って、さりげない会話でその方面を探ってくれて、ついには私の学校生活の概要に気づいてくれて、カウンセリングの技術を駆使して、私の肉付きの面を徐々に溶かしてくれて、その裏の真情を引き出してくれるほどの熟練と熱意のある人物であったなら、私は後年、最低限の事務的な会話以外口を利かなくなるまでに、両親を憎まなかったと思います。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その6” の続きを読む

【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その7

逆境は日を追って重くのしかかり、時間の進み方は滞るばかりでしたが、私はもはや両親に弱音を漏らしませんでした。
4月11日の一回の朝の内に、「『学校に行きたくない』と両親に口にすれば直後に不幸を受ける」という条件反射が私の中に組み込まれ、その動作に関するチャネルは固く塞がれていたのです。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その7” の続きを読む

【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その8

同じ頃の母親は、朝の8時20分に私を起こしにきて、私が布団にもぐったままなのを見ると「今日は学校行くの?行かないの?」と問いただしを必ずしてきていました。母親は、息子に無理強いする自分の姿を作らないために「絶対に学校に行け」という言辞は使わないまでも、その問いただしの口調や表情は露骨に不機嫌そうで、また私が返答を渋っていると「頑張る?」「行ける?」「行けそう?」「行くか行かないか迷ってるんだったら、行ったほうがいいと思うけどなー」などと、登校する方面に誘導する聞き方をやたら多くしてきました。 “【B毒の汚染】 第五章~忘れられた坑道~ その8” の続きを読む

【B毒の汚染】 第六章~嵐の爪痕~ その1

〈第六章 嵐の爪痕〉

実家に帰ると夜九時で、当然その日の診察は無理でした。
予告もなく数ヶ月ぶりに帰ってきたことに驚いた母親に、私は「長谷部先生のところに行く・・・」「精神的な問題を抱えた」と言いました。
母親とは、この一年100語も口を利いていなかったさすがの私も、この晩は折れてこれまでの経緯を説明し始めました。
「中学校の時、B(フルネーム)って奴が居たでしょ・・・?」
中学校の「三年生を送る会」の音声起こしをしたり、B毒の症状を言語的に説明したりするのは始めてでした。 “【B毒の汚染】 第六章~嵐の爪痕~ その1” の続きを読む