【B毒の汚染】 第二章~浸蝕~ その1

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〈第二章~浸蝕~〉

「三年生を送る会」から50日が過ぎた頃、私は愕然とする事実に気がつきました。「三年生を送る会」の場でBに複数回触れられた私の皮膚の部分、すなわちアゴと右の二の腕という二箇所に異物感ストレス感が生じていたのです。患部の位置は具体的には、アゴの先端から周囲約2cmにアゴの前側の膨らんだところを足した皮膚の部分と、右の二の腕の横側、上腕二頭筋と三角筋の分かれ目の三角筋寄りの位置の10円玉大の皮膚の部分です。この異変を認定したのはベッドに横になっている時でした。横になっていて、ふとベッドの右側の柵に身体を寄せかけようとしたところ、無意識に何か不都合を感じ、急いでそこから身を離すという動作をした自分に気づきました。次の瞬間に私は、最近の日常に、手遊びでアゴに触れてみて何かぞわぞわと刺激を感じ、それをやめた体験が、何度かさしはさまれていたのを思い出しました。思い出した、と言うのは、通常の人でも普段、身体のどこかのちょっとしたかゆみや痛みを気にかけないことがあるように、私もその直前までは、皮膚感覚の違和を意識せず、流すことができていたのです。また「三年生を送る会」から一か月あまりの間に、あの場を思い返してイライラする機会は、患部の皮膚と連動するに限らず頻繁にあったために発見が遅れたということも言えると思います。二箇所の皮膚の共通点に初めて気づいた私は一瞬戦慄し、しかし、その時はすでにまどろんでいましたので、この疾患が一過性のものであることを願望しつつ眠りに落ちました。そうして、その次にお風呂に入った時私は患部を石鹸で良く洗いましたが、症状は改善しませんでした。

異物感ストレス感ということについて言語で説明するのは難しいのですが、私なりに考えた言い回しを箇条書きに並べさせていただきます。

・その皮膚の感覚はほかの皮膚に比べて表面の感覚が過敏になっています。
・普通の皮膚は、触れるとその感触を表皮の感知と真皮の感知を一体になって感じることができるのですが、患部の皮膚は、表皮の感覚が強くなっているけれど表皮のすぐ内側に異物感があり、真皮にまで触っている感じがしないのです。
・この異物感は、にきびをつぶしたリンパ液で張っている皮膚とか、内出血した皮膚とか、やぶ蚊に刺された皮膚の腫れぼったい感覚や、自分の脇腹の脂肪を指で突いた後少しの間皮膚の内側がじーんと重くなる感覚に似ています。
・しかし、その皮膚の部分は見た目は普通と変わらないのです。
・そしてその患部を自分で触ったり物が当たると、まるで皮膚が記憶を呼び起こしたみたいに、その圧力に応じて下腹部から上の筋肉が急に緊張して、はらわたを締め付けられ、熱いストレス感が胸を突き上げるのです。
・上記の比喩を、一行でまとめるなら「コンニャク状のストレス物質で表皮が湿潤してしまい、異物が入り込んで密度が多くなった分、表皮の痛覚が挟まれやすくなり、表皮の表面の感覚が強くなった。そして埋め込まれたストレス物質は表皮のわずかな刺激にも反応しストレスを染み出させる」ということになります。皮膚感覚の異常を意識することと、ストレスを感じることは、同じタイミングで起こりました。なぜコンニャクに例えるのかというと、患部の皮膚の、奥までつかめない感じは、かにさされや内出血に比べ、実際は厚ぼったくなってもいないのにずっと多い気がするからなのです。
・二の腕は制服の上から小突かれたのに症状が発生していることから、この症状が心理的要因のものであるのを、私は知識の上では理解しました。しかし、ストレス感異物感の内のストレス感の面については、昔嗅いだ匂いや聴いた音楽で当時を懐かしむことがあるように、感覚が記憶を呼び起こすのは私も知るところで、触覚もその例に漏れないということは、私にとって理屈でわからなくもなかったのですが、異物感の方面は、まったく皮膚自体の疾患であるように私には感じられました。私は「三年生を送る会」が終わってから「あの場で最も多くBと接触した皮膚の部分」という議題について検討した覚えはなく、異物感の生じた範囲は「アゴの先端から周囲約2cm~」とか「三角筋寄りの位置の10円玉大の・・・」などと、まるで液状の化学物質をかけられたみたいに、外部から決めつけられた印象がありましたし、患部の皮膚を押した圧力と、湧き出る不快感が比例するのも物理的な観を与えました。患部に触れて湧きおこるストレスは、その時に機嫌が良ければ流すことが出来ました。しかし、旅行先など気分が外にそがれやすい時であっても、アゴづえはつかず、布団の上べりにアゴは当てなかったという覚えがあります。皮膚の異物感の面は、基本的にはいつでも確認できることでした。

私はいつしか心の中で、自分の皮膚に生じた疾患を、Bが分泌する毒をかけられたが如く様相から、「B(苗字)毒」と呼ぶようになりました。

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