【B毒の汚染】 第一章~露出~ その2

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ブラスバンド部の演奏があり、ビデオのスライド上映、部活ごとの後輩の出し物がありました、Bは声を出せる場面ならば「たっちゃん、ねぇ 猫のはなし!」「ウォイ」「オォイ」の掛け声の大きさを調節して、私のアゴを押し上げることを繰り返してきました。私の悔し涙は、はた目からは学校との別れを惜しんでいる感動の涙と見間違えられていたと思います。
特殊学級の生徒のハンドベルの演奏の時でしたか、先生から卒業生への言葉の時でしたか、あたりが静まっていて、声を出すのが不自然な場面がありました。さすがのBも、私のアゴに触るのを休止し腕を降ろしていました。
私は、ずっと長い間怒り心頭でいて、Bに一矢を報いたいと願望を募らせていました。私は、Bをうかがい、右の拳をにぎりました。本心では渾身の力で殴り倒したい思いで握った拳でしたが、最前から私が反抗する毎に、自分が被害者ぶってさらに報復を返してくるBの行動パターンを知らされているので、勇気を持てずにためらっていました。
私は決心して、Bの左の二の腕の外側を、中指の付け根の関節のとがったところで3回小突きました。この程度の反抗ならば報復されないかもと私は考えたかったのです。
私の反撃を感知するとBは一瞬静止し、小さく鼻でため息をついてBは私がたたいた回数の二倍の回数、私の右の二の腕の外側を叩いてきました。私は倍返しに気づいて、前よりもさらに怒りを燃え滾らせ、すぐに再びBの二の腕を三回たたきました。Bはすでに構えていて、つまり左の前腕を折りあげて拳を私に向けるという構えをしていて間髪を入れずたたみかけるように6回たたき返してきました。私が怒髪天を衝く思いで、Bの二の腕に繰り出した4回が終わるや否や、Bは私の二の腕に、数えるようなリズムで執拗に8回返してきました。
私は、Bが倍返ししてくる前の鼻のため息が、B自身のストレスを抑えるための挙動であったのを推しはかりました。これまで散々私に不快感を与えてきておきながら、私からのわずかな反抗にも気色ばむ、私が委縮していて当然と思っている、私を単に絞れば快楽物質の染み出る道具としか考えていない、私から一方的に人権を奪わないと気が済まないBの意思疎通の不可能な悪辣さを思い知らされ、私は反抗する気力を失いました。

Bを手におえないと完全に判断した私は、しかしそれでもBから逃れたく、左隣にいたOに「背の順、俺よりも先じゃなかったっけ?」と涙声で言いました。「三年生を送る会」での席順は、当初には背の順で並ぶ取り決めがあったのですが、予行演習などを行うたびに少しずつ仲の良い同級生同士で隣合うような配列に組み替わっていました。Bは学級委員をしていてクラス毎に行列する時の先頭に立つ役があり、一番右端の席に固定されていて、私はクラス内で最も低いほどの身長ではなかったのですが、なんとなくそれの左隣に追いやられていたのでした。
私の発言は「背の順で席に着くという本来の規律を守るとすれば、私とOの席順を入れ替わらなければならない」とふと律儀を思い立って出たわけではなく「席を入れ替わって欲しい」という趣旨を託した枕詞であったのです。私の問に対しOは「いいよもう、座っちゃったし」と慌てた風に答えました。私がOに見捨てられたのを耳にして、Bはさらにほくそ笑んでいたことと思います。

このひと時も、大きな声を出すのが不自然な場面のことだったと思います。私は、Bからアゴを守るために、アゴ杖ついて正面を向いていました。
Bが次の悪巧みを始めるのを、私はすぐに視界の端に察知しました。Bは、お腹に肘を支えて右腕を立ててアゴ杖をついている私の姿勢をモノマネし始めていました。私は無意識に身体の向きを少しずつ左に向けました。私はたとえBがモノマネしていたとしても視界に入れずに済むことならばいいな、と祈っていました。私が視認しまいとすると、Bは身を乗り出して顔を近づけてきました。Bは「私のモノマネ」を演出する決定的な要素のつもりで、アゴを大げさに突き出していました。Bは最大限アゴを突き出したまま、執拗に私と視線を合わせようとして来ましたので、Bの眼つきは、私を最大限見下す眼つきでした。私と目が合わさると、Bは、クマを表現してより立瀬を演出したかったのか、自分の目の下のあたりを指で拭いました。Bは何度も反復することで強調したいのか、可能な限り突き出したアゴを少し引いてまた出すという運動をしていましたが、その内にプクフーと吹き出しました。「モノマネ」という演目をするために、笑っていない私に合わせて笑っていない表情を固めなければならなかったBが、それをしている内にBの中での快楽が最高潮に達しもはや表情を固めることはできなくなり破裂する様相としてプクフーと吹き出したもののようでした。
込み上げた怒りが委縮していた反抗心を奮い起こして、再びBに一矢報いるための策を私に思いめぐらさせました。これまで、手出しによる反抗をして報復されている覚えが多かったため、今回は言葉による反撃を試みようという方面に見当をつけ、私はその文言を思いつきました。しばらくためらいましたが、
「マジ、キモイ」
私は自分でも嫌悪感のよく表れたことのわかる切実な声で言いました。するとBは、アゴを突き出したまま「まじきもい」と復唱しました。それからBは、「立瀬のモノマネをする」というコンセプトで行動していたことによる惰性によって、「まじきもい」と復唱したものの、私がBに対して言った悪口を自分で復唱したために、悪口の内容を自分の称号として認めたかのような格好になったのが悔しくなったのか、真顔にかえって
「きみのほうがきもいヨ・・・!」
と「ヨ」のところで噛んで含めるように言いました。

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