【B毒の汚染】 第一章~露出~ その1

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【B毒の汚染】

〈第一章~露出~〉

2005年3月15日、その日は中学校の卒業式の前日にあたり、私は「三年生を送る会」に送られる立場として出席しました。三年一組の男子に割り当てられた区画に、パイプ椅子が横に並べられてあり、私はその列の右端から1つ左側の椅子に座っていて、右隣にはBという同級生がおりました。演壇に立った下級生たちから卒業生への呼びかけが始まりましたが、その文言は決まりきったはなむけの言葉ばかりで、三年生一同興味を持っている者はいず、同級生同士でする小声の雑談が多く聞かれました。Bはパイプ椅子の背もたれに反り返って「あ~、オレは誰としゃべればいいのかわかんないんだよなぁ~」と愚痴を、真後ろの席に座っていた二組のSに言うともなく言いました。するとSは少し間を置いて「たっちゃんとしゃべれば?」と言いました。

この日までのBとSの接点や関係性を私は詳しく知りませんでした。Bが話しかけ始めたばかりであるのに、SはBを自分の話し相手とはせず、Bの関心が私に向くように仕向けた、という状況に至って、SがBを持て余して来たらしいことをこの場で初めて見当をつけました。
私はこれまでSやBと特に親しくしていたわけではなく、この二名とも私を「たっちゃん」などとあだ名で呼んでいますが、それは、他の同級生が、私をそう呼ぶのを見聞きし、それをまねただけのことであったのです。
私は、他のクラスメートとあまり深く交流していない生徒でした。「猫のはなし」というのは、「三年生を送る会」の数か月前でしたか、ある同級生が「たっちゃんてあんまり話さないんだね、なんか話してよ」と振ってきた事があったのです。その時、私は「う~ん、俺は猫のはなしぐらいしかできないからなぁ」と答えました。私は確かに猫好きでしたが、この発言の意図は「自分はのどかな性格だから、話しても何も目新しいことはないよ、だからあんまり話題を振られても困るよ」という意味であったのです。そうした意図であったのを知ってか知らずか、この時から「ねぇたっちゃん猫のはなし話してよ」とからかうみたく、同級生が時々振ってくることが時々あるようになったのでした。
しかし、私をからかう方法の典型を、いつの間にか人づてに知ったBがこれを言ってくるのは、今日が初めてでした。
私は、Bから目線を離し「知らない、猫ってなに?」とへどもどと言いました。私は、猫に関して何か起承転結のあるストーリーを知っているのではなく、自分はおしゃべり好きではないと暗に主張しただけであったのです。それに、Bの表情や語調から、からかいの心が高まりつつあるのを私は感じ取りました。
Bはこの後から、私への執拗な侮辱行為を開始するわけですが、先に「誰としゃべればいいのかわかんない」という発言があるように、この日以前までにBが隙あらば私を貶めようとつけ狙ってきたということは別にありませんでした。ただ、これも以前に「立瀬のアゴは少ししゃくれている」という話題がクラス内で上がったことがあり、その頃から、Bは私のそばを通るときに「たっちゃんといえば、このアゴ」とか「触りやすいアゴだな」などと言って、私のアゴを手のひらで下から押し上げるということをときどきしてくることがありました。

退屈な「三年生を送る会」の空間、「猫のはなし」を聞き出すふりをして私を困らせるという行動パターンがあること、私のアゴを押し上げる行動パターンのあること。Bは、手頃な棒切れを拾った子供がそれを人に振り回すような気持ちでそれを始めたのかもしれません。
「ねぇ~たっちゃん、猫のはなし!」Bの冷たい手が、私のアゴに触れました。

初めの方では私は苦笑いをして伸びてくるBの手の軌道を軽く手でずらしていましたが、Bは次第に両手を使い「オイ」「ウォイ」「オォイ」などと掛け声も乗せて、身を乗り出して「ねぇ~」と言うときにはまるで本心から「猫のはなし」を切望しているかのように、身体をゆする演技も加えて、私の制する手を突破してアゴに触るゲームに熱を入れ始めました。
「ねぇ~てばたっちゃん猫のはなし!」「ウォイ、たっちゃん猫のはなし猫のはなし!!」「オォイ、オォイ猫のはなし猫のはなし!」
他人の、容姿の醜い部分をあげつらうという行為は、ある程度打ち解けた相手に、その人の顔色をうかがいつつすれば冗談として済まされることがあるのかもしれません。しかし、それを嘲った表情で短時間の内に繰り返しすればそれは侮辱です。

私は向かってくるBの手を、つかむ動きで制止するようになっていましたが、私の抵抗が増したことがそのまま、それをかいくぐるBの快楽を増させるようでした。とうとう私がBの両腕を捕まえて軽くねじると、Bは「たっちゃん、痛い痛い」と嘆き声を作り、自分が初めに侮辱を始めてその制圧を受けた訳なのに、急に記憶を失って、いきなり私から不当に腕を絞られたと思い込んでいる人物を演ずることによって、私の抗議を聞き入れる気の無いことを表明し、もって私にさらなる悲しみを味あわせました。

そうして、私がBの腕を離すと、Bはほどなくして侮辱行為を再開しました。

私が、今度はがっちりとBの両手をつかむと、Bは「たっちゃん、やめて、俺は別にたっちゃんのこと好きじゃないから」と悲鳴を作り、私の手を強く振りほどきました。自分が先に私に侮辱行為を働き、その制止を受けたということなのに、Bはその直前までの状況を急に忘れたふりをし、かつ私を同性愛者扱いし、望まないのに肌の接触を強いられている被害者になりすますことによって、私からの非難を受け入れない立場を明確にし、もって私にさらなる悲観を与えました。

その後もBは、私から「猫のはなし」を聞き出したいふりをし、情報を無理に引き出すために私のしゃくれアゴをバカにして苦痛を与える拷問行為の手を決して緩めませんでした。からしのようなつんとした辛みが私の顔を覆い、私は涙をこぼし始めました。
この頃私は怒りに駆られ、伸びてきたBの手を、両手を使って掻きむしりました。するとBは「あ~!!たっちゃん、ひどい~!」と咎めるみたく声を上げ、掻き傷で白くなった手の甲を私に見せつけて「損害賠償ぉ~」と言いました。のみならず私の手をひっかき返してきました。Bは自分が先に私に侮辱行為を初め、その反撃を受けてひっかかれたのに、先に侮辱行為を働いた直前までの状況を知らないふりをし、不当に私から手をひっかかれた最初の被害者であるかのように振る舞うことによって、私からの批判に耳を貸さない意志を明確にし、もって私にさらなる悲嘆をもたらしました。後に深く後悔したことでしたが、Bが居直って、目を剥いて「損害賠償ぉ~」と言った時、私は恐れをなして「ごめんね」とつぶやいてしまいました。

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