書名:パニック障害は治る
作者名:渡部芳徳さん
装丁:単行本
年刊:2005年
引用文のページ数:p31~33
引用文に至るあらすじ:引用するページは、作者さんが、パニック障害の患者がパニック発作の最中に味わいがちな生理感覚の表現を箇条書きにして並べているページです。
引用本文:『パニック障害の主な症状
心臓がドキドキする:動悸・息切れというように、ペアにして使われることも多い、わりあいなじみのある表現です。心臓の拍動が速く、また強くなる心悸亢進も見られます。実際にパニック発作を体験した人は、単に心臓がドキドキする、ハクハクするという表現では生やさしいといいます。心臓が破裂する、口から飛び出しそう、わしづかみにされたようだ、といった激しい言い方がされます。
胸の圧迫感や痛み:鉄板のようなもので、胸を強く押しつけられた感覚や、心臓をわしづかみにされたような不快感です。ただし、それは心臓疾患によるものではないので、心電図をとっても異常は見つかりません。
汗をかく:暑さが原因ではなく、恐怖心や不安感による発汗。冷や汗をかく状態です。そして、冷や汗をかくこと自体が、何か不吉な感じを生み、恐怖心や不安感を増長させます。
呼吸が速まり、苦しい:ハアハアと呼吸が速く、また荒くなって、呼吸が困難な状態になります。息の吸い方と吐き方がわからなくなる、息が詰まる、息切れがすると訴える人もいます。
吐き気や腹部の不快感:胃をぎゅーとつかまれた感じ、おなかの中がぐちゃぐちゃになった感じなどと表現される不快感です。
悪寒・ほてり:体がゾクゾクして、寒気を感じたり、反対に、体がかっと熱くなったりします。
{中略}』
管理人のコメント:パニック障害とは、電車内や、広場や、映画館、床屋、歯医者などの場所(パニックを起こしても助けを求められない場所、助けを求めるのが恥ずかしい場所、心が乱れていることを観察されたら恥ずかしい場所、じっとしていないといけない場所)で強い不安感を起こしてしまう不安障害です。パニック障害にかかると、上記したような場所に出かけづらくなり、行動範囲がせばまってしまいがちです。
パニック障害のことを知らない方は、その字面から「その患者に特有の、何かの脳内物質の分泌を受けて、パニックを起こして、いつでもどこでも突発的にひとりでギャアギャア騒いでいる人」という印象を持ってしまうかも知れません。しかし、パニック障害の患者さんが暴れ回るなどということはまったくなく、逆に、本人は、自分の身体の中に渦巻く不安感にじっと耐えているのです。
私自身も、一時期パニック障害にかかってしまったことがあるのですが、森田療法という、パニック障害を治すための療法を勉強し、その文献にパニック障害の正体が書かれていたのを読んだことから、症状は快方へむかっていったのです。
実は、パニック障害とは、
1、あるきっかけで、自分の心臓が急に止まってしまったらどうしよう、という発想を持つ
2、心臓が正常なことを確認するために心臓に意識を向ける
3、しかし、1で感じた不安があるので、当然心臓は普段よりもドキドキしているわけだが、むやみに意識を集中して観察をしてしまうと、そのちょっとした動悸が、ものすごいドキドキに思えてしまう。
4、ものすごいドキドキを感知したことによって、心臓停止という未来が、現実のものとなりつつあるように信じられてしまいさらに不安にとらわれてしまう。
5、そしてまた必死に安全を確信したくて心臓に意識を向けてしまう
6、4に戻る
という思考回路の無限ループを、その身に抱えてしまった状態のことであるのです。
すなわちパニック障害の人が感じる不安感は、通常の人が、未来への不安に陥った時に感じる不安感とまったく同一の物なのです。
そして、パニックに陥った最中の人は、「自分には近い将来死が控えている」という大変強大な不安に包まれているわけで、本人は、心臓ドキドキ以外にも、不安な時特有の神経症状をいくつも抱え込むことになるのです。引用文に並べられた症状はすべて、不安によって自律神経が乱れた時の症状です。
要するに、パニック障害の患者さんが、不安の最中の自分の生理を表現した文章は、端的には、人間が不安を抱いた時の生理感覚の描写であるということです。