【B毒の汚染】 第四章~伝播~ その1

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〈第四章 ~伝播~〉

予兆はいつの間にか忍び寄っていました。2008年11月18日から読み始めた本の中にBと同じ苗字を持つ登場人物があり、私はその苗字を一個一個、筆ペンで塗りつぶしつつ読み進めていました。2007年にも、Bの苗字が出てくる本を読むことがありましたが、その時には鉛筆でバツをつける程度で気は納まっていたものでした。
それに、お風呂から上がるとき、アゴからしたたり落ちる水をなんとなく避けるようになっていました。もし水滴が、偶然脚に当たってしまった時でも、過日には一瞬不快ながらも長くは気に留めなかったのですが、後には、水道の水で洗い流しに戻ることもあるようになりました。
Bに関するものと不潔でないものを色分けしたい心情が漸漸に高まっていたのです。他者のいないオアシスに暮らして、一面では対人関係に関する脊髄反射的恐怖が全体に薄れましたが、他面では、自らの直近の環境にばかり目を向けがちになってしまったようでした。

そうして2009年1月22日の夜でした。私は床に就いたはじめに、右の二の腕の患部に痒みを感じ、左手の指でそこを掻きました。B毒には不快感を感じながらも、痒い時には掻きたいのです。
そして、これもいつとはなく始まった習慣でしたが、私は、患部に触れた時に指先が浮き上がるような感覚を覚えるようになっていて、そんな時にはたいていその指を家具や布団などになすりつけて、浮いた感じを静めたものでしたが、この時にも同じようにしました。
指が浮く感じとは、例えば、膿をしぼった時に手を洗いに行くまで膿がついている範囲を記憶しておく心理、すなわち不潔感と呼ばれるものと同じ感覚でした。
Bの苗字を墨塗りにする時もそうでしたが、布団に指を擦り付ける時の私の心情は、心の内で設定したBに、Bを甚だ汚らわしく思っていることを示し、ごくわずかずつでもBに反撃する気持ちであったのでした。
私が寝しなにBのことを憎しむのは、1409日前から大なり小なり同じでしたが、この日は殊の外悶々としていました。いつになったら普通の身体に戻れるのだろう?
Bはどこまで私を苦しめれば気が済むのであろう?もし明日地球最後の日で、急に法律がなくなったならBの奴にはこんな復讐をしにいくのに・・・。
その最中、私はふと背中に痒みを感じましたので左手を伸ばして、そこを掻きました。私は中学校の「三年生を送る会」このかた、身体を指で掻くたびに、鮮明さに差はあれど、目の底にその場の残像を蘇らせていて、この時もそれは同じであったはずだと思います。そしてこの刹那に、その場の光景が上映されたことも、直後の発想を形づくる一助を添えたと思います。
私の脳裏には急に「さっき右の二の腕を掻いたその指は、Bが分泌した毒に染められていてお前はその指で、新たに皮膚に毒を刻み込んでしまったのだぞ」という思想が芽生え、増長し始めました。
私は、2005年3月15日から約二ヶ月後に「化学物質にもよらず、心理的な作用によって皮膚に不快感が生じる現象」の存在について知ると同時に、他のどの皮膚にも、機運が揃えば同じ疾患が起こり得るのを念頭に置いたと思います。しかしこの時までは、「Bのような卑劣で不潔な人物に数時間にわたって触れられるようなことがなければ大丈夫だ」と言い含めることができていました。
ところが、4年近くの根回しを経た今に至って、既存の患部に触れた自らの手からでも不快感が伝染ることがあるかも知れない、という疑いが芽生えてしまったのです。
私は、その時最大に恐れている事象が起こっていないのを確認するために、背中の皮膚の感覚に意識を向けました。

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