焦燥感の表現:「白隠禅師: 仏を求めて仏に迷い」からの引用

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書名:白隠禅師: 仏を求めて仏に迷い
作者名:秋月龍珉さん
年刊:2013年
装丁:河出文庫版
引用文のページ数:p75~76

引用文に至るあらすじ:焦燥感の表現シリーズの前回の記事に出てきた、白隠禅師に関する資料を探っていたら、白隠禅師が自身のパニック障害の最中の身体感覚を表現した文章で、「夜船閑話」に引用されたのとは違うバージョンの物が、秋月龍珉さんの「白隠禅師: 仏を求めて仏に迷い」の中に引用されているのを見つけました。秋月さんが「夜船閑話」より後に書かれた白隠慧鶴の著作から引用したものと思われますが、出典が記されていなかったので、孫引きの形で引用したいと思います。引用するページは、作者さんが白隠禅師の経歴を解説したページです。

引用本文:白隠、十二の凶相に陥る
しかし、あまりに修行に努めた結果、二十六歳の時、とうとう重病(引用者註:パニック障害)に陥って、十二の凶相が現れた。
十二凶とは何か。曰く―――― 、

一、頭脳暖かにして火の如し。
二、腰脚冷ややかにして氷の如し。
三、両眼常に涙を帯ぶ。
四、双耳こもごも声をなす。
五、陽に向かえば自然に怖れを生じ。
六、陰に向かえば覚えず憂いを生ず
七、思想を労し、
八、悪夢に疲れる。
九、睡るときは則ち(すなわち)精を漏し、
十、寤る(さむる)ときは則ち(すなわち)気耗す(きこうす)。
十一、食消化せず。
十二、衣に暖気なし。

管理人のコメント:
「夜船閑話」からの引用とけっこう重なっている部分もありますが、あらたに追加された生理感覚の列挙には、焦燥感の表現をする上で私の重要視している、「冷感と熱感の混在」についてより深い分析がなされた箇所が多いので、この記事にて別に取り上げたくなりました。

「頭脳暖かにして火の如し。」= 「夜船閑話」 では、熱感を感じるのは心臓と肺のところまでとされていましたが、今度は頭や顔までもほてっている感じがすると語られています。
「腰脚冷ややかにして氷の如し」=前回の引用では、脚側で冷たいのは両脚までだと書かれていましたが、今回は「腰」も含めて冷たいと述べられています。
「 衣に暖気なし。」=上半身の熱さとは別に、衣、すなわち身体の表面全体にうっすらと涼しさが感じられている。

新たに規定された、熱感や冷感の範囲には、私もまったく同感できるところです。250年前の白隠禅師もまた、現代の人たちとそっくり同じ「センチメンタルな時の冷感と熱感の混在」に存分に惑わされたということです。

また、「食消化せず。」と、やはり白隠禅師も、不安な時には腹痛や下痢に悩まされたようです。

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