焦燥感の表現:「桐島、部活やめるってよ」からの引用

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書名:桐島、部活やめるってよ

作者名:朝井リョウさん
装丁:単行本(ハードカバー版)
年刊:2010年
引用文のページ数&行数:p82、ℓ6~14

引用文に至るあらすじ:高校の全校集会中に主人公前田涼也は、映画部の部員は運動部や音楽部の部員に比べてスクールカーストの下位であるという意識に陥ってしまう。

引用本文:
『校長はぐるりとこちらを振り向いて、短い腕で僕らを指し示しながら順番に紹介していく。男子バレーボール部、女子バレーボール部、ソフトボール部、ブラスバンド部、卓球部、映画部。映画部のところで、なんとなく空気が変わる。ちょっとしたざわめきも、僕にとっては大きく聞こえる。
 これがすごく嫌なんだ。熟れたトマトでもつぶすように、心臓を上からぐしゃりとされたような気分になる。
 映画部ってなに? そんなんあったん? 聞こえる、全部聞こえてくる。言ってなくても、言っている。空気が。お前たちは目立っちゃいけないって、聞こえる。
 僕は、脇の下からぶわりと嫌な汗が噴き出すのを感じた。』

管理人のコメント:比喩として「熟れたトマト」が出てきたのは、作者が、悩みを抱えた時に内臓に感じられる冷感と熱感の混在したごちゃごちゃな不快感覚を表現したかったからだと思う。
トマト=野菜=冷蔵庫に入れる物=冷たい
つぶれたトマトの果汁=酸=酸による火傷=熱い
心臓がトマトにすり替わって、そのトマトがつぶれると、最初はほとばしるトマトの果汁が肉質に付いて、冷たさを感じる。それからトマトの果汁に含まれた酸が肉質を焼くので熱さが感じられる。
焦燥感の熱さを例えるのには、炎よりも酸がやはり適当なのだと思う。

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