【B毒の汚染】 第七章~断片の結合~ その5

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ただ、長い間目障りであったモニュメントを次々に減らせたのはいいことで、これまで積み重ねてきた作家になるための努力が思わず役に立ったのも嬉しいことで、一遍を書き上げるごとに達成感もありましたが、怨恨を描写する作業の最中には、寂しさの情を描写していた時と比べてしらけた気分が混ざっていました。
一人ぼっちでさびしい、という内容を記述している間には、顔にかかった箍を外せた自分のイメージをなんとなく想像できたため、その利益を求める心に突き動かされて、筆を走らせることができました。
過去の怒りを描写する努力の最中にも、負の記念品にとらわれない自分になれる想像を浮かべられましたが、空手道場に通って、空手友達が出来るようになれば、おのずと過去は全体に薄まっていくのではないか?と考えると、興が乗らない部分もありました。
私の心の裏には、いつでも福島での充実した生活が夢に描かれていたのです。6月の下旬や8月の寝しなには、すがすがしい青梅の香りや、盛夏の発散力に勢いを借りてほとばしる桃の芳香が脳裏に浮かんで、涙ぐみそうになりました。

〈第七章~断片の結合~完〉

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